Research techniques

あくなき知の探求

かつてデカルトは、この世界には肉体とは別に自我や精神が存在する、という心身二元論を唱えました。この彼の説は正しいのでしょうか、それとも間違っているのでしょうか。神経生理学的な立場からこの疑問に答えるため、私たちは1)神経活動は心を生み出すのか2)神経活動の変化は心の状態を変化させるのかと問い立て、神経活動と心理状態の因果関係について研究を行っています。そのための研究手法として単一神経細胞レベルと局所神経回路レベル、さらに広域神経回路レベルの、多様なレベルから調査しています。加えて私たちは心理学的行動課題を用いて動物の心理状態を動物の行動から推測します。ある心理状態での神経活動を多角的に解析することで、その“心”を生み出す神経メカニズムの詳細を包括的に解明したいと考えています。

単一神経細胞の

情報処理

私が孤独であるとき、私は最も孤独ではない。キケロ
私たちは、神経細胞の樹状突起におけるCa動態を観察し、その機能的意義の解明を目指しています。神経細胞は脳の情報処理の基本単位で、細胞体と軸索、そして樹状突起で構成されています。樹状突起は多数の神経細胞からの情報を受け、それらを統合する場所です。よって脳の情報処理機構を解明するためには、樹状突起活動を精査する事が必要不可欠です。樹状突起は他の細胞から、いつ、どこで、どの様に入力を受け、そしてどの様にその入力を統合しているのかといった基本的な疑問さえ解明されていません。というのも、今まで脳内での樹状突起活動を調べる事が技術的に困難であったからです。そこで私たちは、これを可能にする2光子イメージング法や光ファイバーイメージング法を独自に開発し、この謎の解明に挑んでいます。

ニ細胞間の

シナプス伝達

其の人を知らざれば、其の友を見よ。   孔子

私たちは、2つの神経細胞間における情報伝達の様子と、それを支える神経メカニズムの解明を目指します。例えば、動物の心理状態によってシナプス伝達効率は変化するのでしょうか。これを解明するためには、出力する「前」神経細胞の活動と、それを受ける「後」神経細胞の活動を同時に記録する必要があります。神経細胞の活動を調べるためには、細胞内記録法が適しています。この方法により、膜電位応答を詳細に計測することが出来ます。また細胞内に色素を注入する事が出来るので、染まった細胞の形態から記録した神経細胞の種類を識別できるという利点があります。行動中の動物の脳内から複数の神経細胞の活動を同時にかつ安定的に記録することは容易ではありませんが、現在私たちはこれを可能にする記録システムを構築中です。

中・広域神経

ネットワーク

真なるものは全体である。   ヘーゲル

私たちは、動物の心理状態の変化が、神経ネットワークの動作原理や複数存在するネットワークの活動の相互作用にどのように影響を与えるのかを解明します。脳の高次機能は、神経細胞で構成されたネットワーク同士の協調的動作で発現すると考えられています。私たちは、神経活動が伝播していく様子や、その活動を支える神経細胞がどんな種類であるのか、いつ、どこで、どの様に活動するのか、といった疑問を明らかにするため、大脳新皮質のほぼ全領域の表層から集合神経活動を記録できるイメージング法を用います。また、より詳細に神経活動を解析するために、単一神経細胞レベルで圧倒的大多数の神経細胞の活動を高速に記録出来る新しいイメージング法を開発中です。

脳スライス実験

困難は分割せよ。   デカルト

脳内で観察される神経現象は、多様な神経細胞種による複雑な神経活動によって成り立っている場合があります。私たちは、脳内での神経現象のメカニズムをより詳細に調べる為に、脳スライス標本を用いた研究も行っています。

動物の心理状態

行動なくして幸せはない。   ディスレーリ

私たちは、動物の行動(心理状態)と神経活動との因果関係の解明を目的としたマウスの新規行動実験課題の開発を行っています。

新技術の開発

僕の前に道はない、僕の後ろに道はできる
高村光太郎

私たちは、今まで観察する事が出来なかった神経活動を観察可能にする革新的な実験手法の確立を目指します。この目的達成のため、神経生理の知見のみならず、工学や化学などの他分野の技術を総動員し、失敗を恐れずに新しいアイディアを積極的に試します。また、実験効率を向上させるためのシブい実験手法も同時に開発しています。

ハードコア

神経生理学

脳機能の包括的理解のため、できる限りの多様な神経生理学的手法を用います。